「費用対効果」の考え方

関西地方を襲った台風、北海道の大地震、と大きな災害が続きました。台風では、関西国際空港(関空)が高潮で浸水し、連絡橋に船が衝突して橋が損傷する被害が出ました。
関空は海上空港ですから、もちろん津波や高潮を想定して防潮堤が造られていたそうですが、その想定を超えた高潮に襲われ浸水してしまったとのことでした。最近は、50年に1度、100年に1度といった自然災害が日常茶飯事のように起こり、その度に「想定外」という言葉を耳にします。
2011年の東日本大震災の折には、想定を大きく超える津波に襲われ、多くの方々が犠牲になり、原子力発電所の事故には今も苦しめられています。この震災以降、想定外の災害を想定して、防潮堤を高くするなどの努力が続けられてきましたが、どのように想定しても、その想定を上回る災害が起こる可能性はあるようです。
関空でも、想定を見直して防潮堤の高さを高くする工事がなされたようですが、今回、それを上回って海水が入ってきてしまったのです。想定を見直して防潮堤を高くしたのは正しい判断だと思います。しかし、新しく想定した高潮の高さギリギリの防潮堤で良かったのでしょうか。それより、5メートル、10メートルの余裕を持ったものに変える必要があったのではないでしょうか。
さらに言えば、気候等が変動しつつある今、どのように想定をしてみても「想定外」の災害に襲われる危険性があるのかもしれません。「絶対」ということはないのです。ですから、想定を超えた時の対策も講じておくべきだったのだろうと考えます。関空で言えば、電源システムを高い所に設置するといったことです。しかし、聞くところによれば、重たい電源システムをビルの上に設置するのはなかなか難しいとのこと。それなら、潜水艦のように、絶対に水の入らない部屋のようなものをつくり、そこに電源システムを入れるということも考えられるのではと思います。
さて、関空への連絡橋が壊された事故ももう一つの問題です。強風に押し流された船がぶつかって壊されてしまったのですが、それを防ぐには、橋の手前に柱のようなものをつくって橋にぶつからないようにすれば、比較的安価で対策ができると聞きました。
しかし、そもそもこれまでも少し風か強ければ、この連絡橋は閉鎖されてしまっていました。地下トンネルではなく橋にしたのは、コスト面も考慮してのことでしょう。経営的に言えば、費用対効果の問題。ただし、この費用対効果を考える時、何を効果に入れるのかによって、結果が大きく変わるように思います。
原子力発電について言えば、他の発電方法より費用が安くて安定していると言われてきましたが、事故のリスクや後処理の費用を考えれば、原子力以外の発電の方がずっと安価だということがわかりました。
連絡橋の事故で関空がまさしく孤島になってしまったという経験をしてしまった今、関空を利用していた人々や企業は、この空港をこれからも利用するでしょうか。海外の人々や企業はなおさら、そのリスクを過大評価して関空を避けるようになるかもしれません。天候に左右されない地下トンネルは造るのに費用がかかるかもしれませんが、「信頼」「信用」というモノサシを効果の指標に加えるなら、費用対効果での評価が変わってくるのではないでしょうか。もちろん、橋が不要というのではなく、二重三重の備えこそ「信頼」「信用」の大切なポイントであると思います。
企業活動とって、そして国や地方の行政にとっても「費用対効果」を考えることは当たり前のことですが、その時に使う指標、モノサシを今一度見直してみることも大事なのではないか、そんなことを考えています。

nf528主宰 二神 典子