同じことを表現するのにも、いろいろな言い方があります。そして、その表現の仕方によって、印象は随分変わります。私は編集者ですから、読者の受け止め方を常に気にかけていますが、その点から言うと、新型コロナウイルスに関する情報発信の仕方には問題があるように思えます。
緊急事態宣言が出され、外出の自粛要請、営業の自粛要請など、自粛とか要請とかいう言葉をよく耳にするようになりました。自粛という言葉には、とても窮屈な印象があります。また、行動を制限されたり否定されたりすることには反発も生まれます。それでなくても感染者が増え気持ちが重くなっているときに自粛と言われたら、ストレスの塊になってしまいそうです。また、若い人たちは、どのくらい自粛という言葉を理解できるのでしょうか。普段、彼らが使う言葉とはかけ離れているように思います。
最近、STAY HOMEという言葉が世界中で合言葉のようになっていますが、これは否定形ではない前向きの言葉なので、気持ちが楽になります。若い人にもわかりやすいと思います。でも、年配者にとっては身近に思えないかもしれません。日本語にして「家(うち)にいよう」と言う方がなじみやすい気がします。子どもにもわかりやすいですよね。
要請という言葉も普段なら何でもない言葉ですが、今のような先が見えない状況の時に言われると、トップダウンに思えますし、威圧感があります。法律的にはそれでいいのですが、国民や市民に言うときには、「外出の自粛」ではなく「家にいよう」、「営業の自粛」ではなく「休業のお願い」といったように、少し優しい言葉に換える工夫が必要でしょう。要請されて従うのではなく、自主的に行動をするときです。そのために必要なのはトップダウンではなく、共感です。
いま「不要不急」の外出を自粛することが求められています。人との接触を8割減らさないと新型コロナウイルスの感染は収束できないと指摘されています。しかし、多くの人が努力しているにもかかわらず、達成は厳しいようです。そこで言い方を変えて「必要至急」なことだけをするようにしてみてはいかがでしょうか。「不要か」と問われれば「不要でない」と思うものでも「必要か」と問われれば「どうしても必要というわけではない」というものも結構あると思います。
単なる言葉の裏返しのように見えますが、削るより加える方が、気持ちが楽になるように思います。何となく息が詰まりそうな毎日を過ごされている方も多いと思いますが、否定形の言葉を能動態に換えてみませんか。気持ちが楽になります。
nf528主宰 二神 典子