小学校6年生のとき、林間学校で大山(だいせん 鳥取県)に登りました。その日、朝から天気はそれほど良くなかったのですが、9合目を過ぎたあたりだったでしょうか、先生の指示で引き返すことになりました。頂上は目前です。後から登ってくる人たちは私たちを追い越して頂上を目指しています。
「ここまで来たのだから頂上まで行きたい」と思ったのは私だけではなかったと思います。随分下まで降りてきて昼食を取っているときに、雨が降り始めました。私たちは急いで荷物を片付けて出発しました。細い山道はすぐに川のようになってしまいました。宿に着いたころには、みんなびしょ濡れです。あのまま頂上まで行っていたら、私たちはもっとひどい目に遭っていたことでしょう。
「山は危険。天候が変わったら勇気をもって引き返すことが大事だ」。随分以前のことですから、具体的には覚えていませんが、そのとき先生はそのような話をしてくださいました。そして、それ以来、私の中に「無理をしないで引き返すことが大事な時もある」ということが、深く刻まれました。
今、新型コロナウィルス感染対策で、さまざまなイベントを開催すべきか中止すべきかで悩んだり迷ったりしている関係者も多いと思います。世論は大方「中止」に傾いているようですが、開催しても中止しても、賛成、反対、両方の意見が寄せられるでしょう。
2週間ほどすべての人が一斉に会社や学校に行かず家でじっと待機していることが、新型コロナウィルスの感染拡大を阻止する一番いい方法だと思います。しかし、現実にはそれは不可能です。そのことは、いちいち事例を挙げるまでもなく、自明のことと思います。
では、やめられるものとやめられないものの線引きが難しい時の判断は誰がいつ決めるのか。私が判断をする立場だったら、小学校の林間学校での経験から、今の状況では大げさだと言われても後の影響が大きすぎると反対されても、「中止」の判断をすると思います。さまざまなイベントを中止することによる経済への悪い影響は、新型コロナウィルスの脅威が一日も早く過ぎ去ることによって、建て直しを早くに始めることができると思うからです。
小学校6年生の時の林間学校で雨に降られたとき、リュックサックに入れていた荷物がびしょ濡れになり、大事な資料が台無しになってしまいました。リュックはある程度の防水効果はあるのですが、大雨には耐えられませんでした。
その後、何十年もたってからですが、取材で富士山に登る機会がありました。このときも途中から大雨に見舞われて山小屋に着いたときには全身びしょ濡れでした。リュックに防水カバーをかけていても中身が濡れてしまっていて、せっかくの着替えも役に立たないという人もたくさんいました。私はリュックの中の荷物をいちいち厳重にビニール袋に入れていましたから、着替えも、カメラも、資料類もすべて無事でした。これには以前にリュックの中の荷物を台無しにしてしまった経験が生きていました。
いろいろな事情を鑑みてイベントを開催すると判断した場合、マスクやアルコール消毒を用意するといった安易な対策だけでなく、最悪のケースを想像して必要と思われる以上の対策を施していただきたいと考えます。それが決断した人の責任です。
nf528主宰 二神 典子