思い起こせば、コロナウイルスの感染拡大が始まったのは、まだ寒かったころ。桜が咲き始め満開になり、花水木やつつじなどの花々が美しく咲いて、新緑がまぶしい季節が、家に籠っていて知らない間に過ぎ去っていきました。まだまだリスクは高いというものの緊急事態宣言が解除されて外に出ようとしたら、そこは蒸し暑い世界が待っていました。ただでさえ不快なのに、マスクをしていると口の周りに熱と湿気が籠って気分は最悪です。
そこで登場したのが、通気性や吸水性に優れた生地でできた夏用の布マスクです。使っている人の感想は「風通しがよくて快適」とのこと。えっ? ちょっと待ってください。風通しが良いということはウイルスの出入りも自由ということでは? ドラッグストアなどで販売されているサージカルマスクでも、ウイルスは侵入してしまうので効果は十分でないと言われていました。それよりも通気性のいい夏用の布製のマスクで、本当に大丈夫なのでしょうか。ちょっと心配です。
日常的に行っていると、何のためにそれをしているのか忘れてしまうことがよくあります。目的がいつの間にか手段に変わってしまうこともよくあることです。マスクをする生活が日常になってきて、その分「なぜ?」という意識が薄れてしまったのかもしれません。マスクの着用はコロナウイルスに感染したり、感染させたりすることを防止する目的を実行するための手段です。その手段が目的に変わり、今度は快適にするための手段として通気性の良い夏用マスクが出てきたのではないかと思います。
そもそも飛沫を他人に飛ばさないためのマスクですから、ソーシャルディスタンスと言われる距離を保つことができるのであれば、換気のよいところであれば、マスクは不要です。それでもマスクをつけないことに対する他人の目が気になりますし、万が一感染したりさせたりするかもしれないという怖さを感じている人も多いことでしょう。ですから、感染リスクを回避する手段としては少し劣る通気性のよい布マスクでもつける意味があると思います。コロナウイルスの感染者が少ない今の日本では、ウイルスに感染するより熱中症になるリスクの方がはるかに高いように思われます。
暑いけれども風通しのよい屋外では通気性のある夏用布製のマスクを、過密になり換気が十分でない電車の中や冷房の効いた屋内ではサージカルマスクを着用するなど、コロナウイルス感染と熱中症のリスクの双方を十分に考えながら使い分ける必要がありそうです。
マスクの問題だけでなく、私たちが目的と手段を混同する例はたくさんあります。時々原点に立ち返って「そもそも何のため」ということを確認することは、ビジネスにおいても日常生活においても大切なことだと思います。皆さまも「当たり前」と思っていることの原点に立ち返ってみる習慣をもってください。
nf528主宰 二神 典子