初心に帰る

突然、「これからは取材に行ってもらう」と、代わったばかりの編集長に言われたのは、もう30年も前のことです。フィルムカメラの時代、初めて使う一眼レフカメラはマニュアルフォーカス。一枚写真を撮るたびに、フィルムを巻く作業もしなければいけませんでした。
「ファインダーを覗いて。ここをゆっくり回すと、ボーッとしていたものがピタッと合うようになる。そこがピントの合ったところだ」と先輩に言われてやってみたのですが、さっぱりわかりません。私なりに何度もその作業を繰り返してみるものの、わかったような、わからないような…。
取材ですから、動いている人を撮らなければいけません。カメラを借りて、渋谷のスクランブル交差点に出掛け、横断歩道を渡ってくる人を何枚も撮ってみました。ある時は、先輩の草野球の試合に行って写真を撮りました。撮るたびに写真をチェックしてもらい、少しずつコツがつかめてきました。しかし、取材は屋内がほとんど。今度は屋内のあまり明るくない所でフラッシュを使って撮影をする練習をしました。理論がきちんとわからないと気が済まない性格でしたから、カメラや写真関係の本や雑誌を購入して、一眼レフカメラの構造や撮り方なども勉強しました。
そんなことを2~3か月した後に、初めて取材に出ました。「ここがシャッターチャンス」と思ってシャッターを切ろうとしたもののフィルムを巻き忘れていてシャッターが切れなかったり、フィルム交換をした際にうまくフィルムが絡まっていなくて、フィルムが空回りをして写真が撮れていなかったり…、失敗という失敗はすべて経験しました。その後、カメラは自動になり、そしてデジタルになり、本当に楽になったものです。
『ロータリーの友』の編集長になってからは取材する機会が何倍にも増えました。国際大会などでプロのカメラマンと一緒に仕事をすることも多くなり、その人たちの動きを見て、多くのことを学びました。そして、手前味噌ではありますが、随分上手になったなと思うことができるようになったのです。
『ロータリーの友』の仕事を辞めた時、編集の仕事と同時に写真も仕事にできないかと考えていました。この一年間、そのつもりでたくさんの写真を撮影して歩き、少し前から、それらの写真をあるサイトで売り始めました。その写真を準備するに当たって、自分の撮影した写真を見直すと、ほとんど気に入らないものばかりです。1,000枚以上もある写真で何とかなりそうなものは、せいぜい50枚程度。目的が変われば、写真の撮り方も必要なテクニックも変わるということです。そのことは十分わかっていて意識して写真を撮ってきたつもりでしたが、中途半端なものばかりでした。
8月に新しいカメラを買いました。これまで長年使っていたメーカーとは違うメーカーのものです。ユーザー登録をすると、そのカメラの使い方教室の案内が届きましたので、初心者向けの教室でしたが、参加してみることにしました。カメラの仕組み自体は知っていることばかりでしたが、それでも新しい発見がいっぱいあって、とても興味深い内容でした。
このテクニックを使えばもう少し面白い写真が撮れるに違いない、と思えるものも多く、いろいろなシーンで試してみたいと、ワクワクしています。30年前、初めて一眼レフカメラを手にした時のようです。初心に帰って、撮影を楽しみたいと思っています。写真撮影には絶好の季節です。

nf528主宰 二神 典子