死者からの手紙

先日、郵便受けに入っていた手紙を見て「あれ?」と思いました。白い封筒に印刷されていた文字の色がグレーだったからです。急いで部屋に帰って封を開け、その手紙を読むと……。やはりそうでした。その方は、亡くなられていたのです。
この手紙がいつ書かれたものかはわかりませんが、自分の死期を悟って生前ご縁のあった方々にご自分の言葉でお別れをされたのだと思います。ご本人からのお手紙とともに、ご親族の方からのお手紙が添えられていました。
私がその方と最初にお会いしたのは、まだ、20歳代だったころのことです。お会いしたというよりは、お見かけしたと言った方が正しいかもしれません。その時、焦げ茶色のマントを着ていらっしゃいました。遠目に見てもかなり上質な一品だということが私にもわかりました。マントなんて誰でもうまく着られるものではないのですが、本当によくお似合いで、とてもカッコ良くて、今でもその姿が目に焼き付いています。
その出会いから20年近くたったころでしょうか、その話をご本人にしたことがあります。「あのマントのことを知っている人はもうほとんどいませんが、そんなことを覚えていてくれるのですね」と、照れくさそうに、嬉しそうにおっしゃいました。そのマントは、着道楽だったお父さまが、生前に誂えたものだったそうです。上質なものは、時代が変わり、着る人が変わっても、流行に後れることなく、十分に素敵なのだなと感心したものです。
ご年齢から考えれば天寿を全うされたと言えるかもしれませんが、それでも訃報に接すると、いろいろなことが思い出されて寂しく、悲しくなります。
実は、私が亡くなられた方からお手紙をいただいたのはこれが初めてではありません。最初にいただいたときはとても驚きました。そして、その方のことがいろいろと思い出され、寂しく、悲しくなりました。しかし、この度は、もう一つ別のことが頭をよぎりました。この世に生を受けた限り、死は必ず訪れます。死に向かい合ったとき、私は冷静にご縁があった皆さまへのお別れが言えるのでしょうか。自分の人生にきちんと終止符を打つことができるのでしょうか。必ず死が訪れるということが頭でわかっていても、そのことを冷静に受け止められる自分を想像できません。
お二人とも尊敬している素晴らしい先輩です。教えていただいたこと、見習いたいと思ったことは数えきれないくらいあります。最期もまた教えていただきました。ありがとうございました。

nf528主宰 二神 典子